ヒヤリハット分析から見た指導方法6
信号交差点に対する指導方法
その1(総論、信号発進、直進)
道路を走る以上、信号交差点を避けて通ることはできません。
信号交差点は車と人、道路が複雑に交わる場所で、そこを通行する車・単車・自転車・人の交通ルール無視やエラーで交通事故も多発する場所です。
ここで考えなくてはならないのは信号機が設置されていることの利点です。
≫方向別の交通を分離することで、交通事故を防止する。
≫交通量の応じた動作をつくりだすことで、車両の流れをスムーズにする。
≫車両の流れをスムーズにすることで、排気ガスや騒音の交通公害等の交通環境を改善する。
ことを目的に設置されていますので、信号交差点を通行するドライバーや人は、このことを理解して通行する必要があります。
信号機のありがたみは、東日本大震災発生後の計画停電で物損事故が急増したことでもわかります。
【2011.3.19 埼玉県警交通企画課 発表】
大震災が発生後17日までの1週間に県内で発生した物損事故は、
2,441件 前年同期比 +727件(+42%)も急増との発表がありました。
この数字は、人身事故や届け出のない物損事故も含まれてない事を考えると信号機設置の効果がよくわかります。
信号交差点でのヒヤリハットについては、行動別
① 総論、信号発進・直進時 このページ
② 右折時
③ 左折時
の3行動に分けて指導方法等を入れながら説明します。
では、この信号交差点での事故の現状を見てみましょう。
イタルダ・インフォメーションNO95
「信号交差点における右折事故」
の中に参考データがありますので紹介します。
道路形状別死傷事故の構成率【H23】
▼交通事故の半数以上が交差点とその付近で発生
信号交差点 第1当四輪車の行動類型別の事故構成率~ 右折時と直進時で70%以上
▼四輪車の関与した事故が全体の90%以上
▼四輪車の関与した事故のうち約95%が四輪車が第1当事者
▼「 直進」時の事故では「信号無視」が半数以上を占めている。
▼右折事故では「信号無視」は約3%、右折事故の多くが当事者の双方が「青信号」で交差点に進入し事故を起こしている。
▼ 場所別・原因別・相手方
信号交差点でのドライバー側からのヒヤリハットは、ヒヤリハット520件中 79件で、全ヒヤリハットの15% です。主たる原因別で見た相手方では下記の表のとおりとなります。
全体では、
①二輪車
②自転車
③歩行者
当方の原因では、
①二輪車
②自転車
③自動車
相手の原因では、
①自転車
②歩行者
③二輪車
双方の原因では、
①自転車
②自動車
③歩行者
▼ 信号交差点でのヒヤリハット(79件) 直前時行動別
●直前時行動別では、
イタルダ・インフォメーションNO95
信号交差点 第1当四輪車の行動類型別の事故構成率と類似しています。
●直前時行動とヒヤリハット形態別では、全体の95%を占める4形態(75件)の上位3つの原因で見ると
▼右折時(21件)
≫ 確認不足 7件 ≫ 信号無視 4件
≫ 前車急減速・停止 4件
▼信号発進時(20件)
≫ 信号無視 13件 ≫ 前車急減速・停止 2件
≫ 飛び出し 2件
▼直進時(19件)
≫ 信号無視 7件 ≫ 前車急減速・停止 3件 ≫ 急な右左折・転回 3件
▼左折時(15件)
≫ 確認不足 10件 ≫ 信号無視 3件 ≫ 飛び出し 1件
となっており、この4つの直前時行動時に何に注意すればよいかが見えてきます。
※ このページで4行動を全てを説明するのは無理ですので、
① 総論、信号発進・直進時 このページ
② 右折時
③ 左折時
の3回に分けて指導方法等を入れながら説明します。
信号発進時のヒヤリハットは20件で、そのうち相手方の信号無視によるものが70%を占めています。
▼信号無視の相手方
≫自動車 6
≫自転車 4
≫歩行者 3
≫二輪車 1
全国データのイタルダ・インフォメーションNO95調査
【1当四輪車行動類型別事故件数と「信号無視」事故件数】[平成23年]では、
≫発進時7,779件
うち信号無視1,134(15%)
となっており、直進時に次いで多い件数です。
▼再掲(クリックで拡大)
第1当四輪車行動類型別事故件数と「信号無視」事故件数[平成23年]
▼① ワンクッション置いてからの発進に心掛ける。
自車からの視野では左右車両による死角があります。すなわち自車と左右車両から見る視野が違うことを意識すべきです。
≫発進時事故の防止方法として、左右車両が進行してからの発進するように心掛けてください。
■その際は、左右車両が信号無視による急ブレーキをかけることを予測することも必要です。
▼ 青に変わってすぐに発進しない。
➠
▼左右の車両が発進してから自分も発進
≫ 左側に停車している車の死角で左側の状況が細部まで分りません。
≫ 左の車が発進したのちワンテンポ置いて発進すれば、信号無視等の車両や人に対する出会い頭事故は減少させることができます。
・・・他車を壁にして事故回避・・・
ただし、左右車両に続いて発進するとしても急加速の発進は避けることと、左側の車両が信号無視の車両や人の回避措置で急ブレーキをかけるかもしれませんので、その点を頭において自身の目視による安全確認をして進行させてください。
▼上記内容は下記のヒヤリハット状況および改善点も同趣旨の内容になっています。
ヒヤリハット状況 | 改善すべき点 |
≫トラックで、交差点の信号待ちをしている時青信号に変わったので発進しようとしたら、斜め横から自転車が飛び出してきて、自車の目の前を横切った。 | 信号が青に変わっても直ぐに発進せず、前後左右の確認をしっかりと行う。 |
≫信号待ちをしている時青に変わって発進しようとしたら、自転車が横から急に飛び出してきた。 | 発進前には前後左右をしっかり確認する。 |
≫信号が青に変わり、発進しようとした時赤信号を無視して、左側から猛スピードで目の前を車両が通過した。 | たとえ信号が青でも、優先道路であっても、一呼吸おいてから安全確認を行い、発進するよう心掛ける。 |
≫交差点の信号待ちをしている時信号が青に変わり発進しようとしたら、タクシーが目の前を通過した。 | 信号が青に変わっても、周囲の安全確認をしっかり行ってから発進する。 |
≫信号が青に変わり、交差点を通過しようとした時赤信号になっている筈の道路から車が飛びだしてきて、目の前を通過した。 | 信号が変わっても直ぐ発進せず、左右よく確認する。 |
▼② 発進追突防止を兼ねた停車時のチェンジ等操作
停車したら、チェンジを「N」レンジに入れる。
これは発進時の追突防止にも繋がる行動で、
■誤発進操作の軽減
■発進時のチェンジ操作にかかる時間を得る
ためです。
この操作に慣れてくるとドライバーは、
■「余裕のある発進」ができるようになり、
■前車との車間距離が広がることで、良好な視野が確保でき前車の急な動きに安全な対応できるようになります。
ヒヤリハット状況 | 改善すべき点 |
≫左折車線で信号待ちをしている時信号が青に変わったので、前方車両に続いて発進したが、自転車が歩道を横断した為、前車が急停止し接触しそうになった。 | 信号が青に変わっても、慌てずにゆっくり発進し、前車との間隔は適正に保つ。 |
≫交差点で信号待ちをしている時信号が青に変わり発進しようとしたら、後方から突然バイクが自車の前に入ってきて、接触しそうになった。 | ミラーや目視による後方確認を常に行い、危険を予測しながら走行する。 |
≫交差点の信号待ちをしている時信号が青になり発進しようとしたら、前車が急ブレーキを掛け、衝突しそうになった。 | 前車との車間距離は十分にとり、周囲の状況をよく確認する。 |
■自身の車間距離を第三者(前車)の立場から見させて車間距離を意識させる。
▼同実技体験で前車との車間距離が普段より約2m長くなる。
この体験は、「原点回帰講習」に取り入れて実施しており、今まで実施した貨物車の
≫日頃の平均車間距離 2.7m ≫前車から見た平均車間距離 4.6m
で、約2m長くなります。
方法は簡単で、下記写真のように
①普通車の後ろに自分が毎日運転する貨物車を信号待ち等での車間距離とらせて停車したのち測定
②普通車に移動して、運転席からバックミラーとドアミラーを見て威圧に感じない距離まで移動し測定
をします。
~ 自身の車間距離を第三者の立場から見ることで車間距離を意識させる。 ~
≫ 後ろの車が「クラクションを鳴らす。」とか「迷惑をかける。」等と反論が出るかもしれませんが、今までこの同動作で「クラクションを鳴らされた」ことはありません。これはドライバー同士の許容範囲であり、出会い頭事故や追突事故を起こす方が他人に迷惑をかけることになります。
~ 指導者の方が運転する際、検証を兼ねて実践していただければ分ると思います。
■ この操作等を身体で覚えさせることができれば、下記写真の場面のような
右左折時や料金所通過時の追突防止にも繋がります。
▼「直進時」のヒヤリハット形態
直進時のヒヤリハットは全部で19件あり、形態別でみると、
①信号無視 7件(37%) ②急な右左折・転回 3件(16%) ③前車急減速停車3件(16%)
で全体の70%を占めています。
◆①「信号無視」のヒヤリハット
直進時のヒヤリハットで最も多いのが信号無視(37%)です。
●信号無視(n=7)の相手方は、
≫自転車 6
≫二輪車 1
となっており、1件を除いた6件が相手方の原因です。また、
全国データのイタルダ・インフォメーションNO95調査
【1当四輪車行動類型別事故件数と「信号無視」事故件数】[平成23年]では、四輪車の
≫直進時 32,256件
うち信号無視 16,515(51%)
と最も多い件数です。
▼再掲(クリックで拡大)
第1当四輪車行動類型別事故件数と「信号無視」事故件数[平成23年]
が、ヒヤリハットでは当方の信号無視が1件あるのみです。
信号無視による ヒヤリハット状況 |
ヒヤリハット体験による改善内容 |
① (相手の信号無視) 出勤時に裏道を走行中交差点で、信号を無視して走ってきた自転車が、自車の目の前を通過した。徐行していたので事故にはならなかった。 |
見通しの悪い交差点なので、スピードは出さず安全確認をしっかり行う。 |
② (相手の信号無視) 交差点を直進しようとした時赤信号にも関わらず、自転車が飛び出してきた。 |
左右の確認をしっかり行い、交差点を通過する時にはスピードを落とす。 |
③ (相手の信号無視) トラック運転中信号が青だったので直進しようとしたら、自転車が信号を無視し、飛び出して来た。 |
信号が青でも、左右の確認はしっかり行う。 |
④ (相手の信号無視)
3m幅の道路を30㎞の速度で走行中交差点に差し掛かり青信号を確認したが、脇から自転車が飛び出してきて、赤信号を無視して目の前を通過したので、慌ててブレーキを踏んだ。 |
信号だけを頼りにせず、周囲の確認と注意はしっかりと行う。 |
⑤ (当方の信号無視) 車を運転中、信号のある交差点に差しかかった時大型トラックの後ろだったので信号が見えず、赤信号で進入してしまい、右側からの車にヒヤッとした。 |
状況判断に気持ちを集中し、KY意識を習慣づける。 |
◆② 対向、前車の急な右左折・転回及び③前車急減速停車のヒヤリハット
◆相手方は
●自動車 5 ●二輪車 1
となっています。
◆ヒヤリハット内容は、下記表のとおりで改善内容からどう対応するかが見えてきます。
②急な対向右折車による ヒヤリハット状況 |
ヒヤリハット体験による改善内容 |
① 通過しようとした時信号が青だったので直進しようとしたら、対向右折の大型トラックがノーブレーキで突っ込んできた。急ブレーキを踏んで停止できたが、危うく衝突するところだった。 |
信号が青だからと油断でずに、安全確認を怠らない。 |
② 現場への走行中追い越し車線を80㎞のスピードで信号を通過しようとした際対向右折車が急に出てきた。自分が急ブレーキをかけ、接触せずに済んだ。 |
記載なし |
③ 帰宅途中、国道を横断する目的で交差点に入り、前方の右折車に進路を阻まれ、危険な目にあった。 |
黄色信号への変わり気味で突っこんだのがいけなかった。 |
③前車急減速・停車による ヒヤリハット状況 |
ヒヤリハット体験による改善内容 |
① 交差点を直進中2台前の車(軽四輪の高齢ドライバー)が、右折しかけて急停車し、「交差点内でバック走行」しだしたため停車した。(その車は走行中も挙動不審な動きがあり車間距離をとってスピードを控えていた) |
前方の状況を良く理解し、「かもしれない運転」を励行する。 |
② 走行中通過しようとしたら、バイクが交差点内で突然停止し、追突しそうになった。 |
信号が青でも、交差点を通過する時はスピードを落とし、周囲の安全確認は必ず行う。 |
③ 左側が左折ライン、中央・右側が直進ラインの3車線道路で、中央を走行中左折ラインが渋滞しており、自車の前を走行していた車が左折したかったのか、青信号にも関わらず信号機の下で急ブレーキをかけ停車した。 |
車間距離をとっていたので問題なく停車できたが、追突されないかとヒヤヒヤした。 後方の状況も常に確認しておく。 |
信号交差点直進時等での注意点ですが、ヒヤリハット体験による改善内容を見れば対応等が見えてきますが、ここで考えなくてはならないのはヒヤリハット側のトラックドライバーに問題がないか? ということです。
▼ トラックドライバー側の信号無視の実態は?
ここに参考データがあります。このデータは自動車安全運転センター大阪府事務所が企業向けの参考資料として出しているもので、約3,000事業所 約60万人のデータとなります。
下のグラフは、自動車安全運転センター大阪府事務所が申請企業向けに提供している「運転記録証明書の分析結果Ⅱ」の比較データを基に作成したグラフです。
貨物運送(1053事業所 約20万人)と他企業(2214事業所 約44万人)との比較で、
●信号無視違反率は、1年間で
トラックドライバー➡ 違反率 3.22% 、31人に1件の信号無視
他企業ドライバー➡ 違犯率 2.75% 、36人に1件の信号無視
と、約1.2倍トラックドライバーの方が信号無視が多いことになります。
▼理由は?
≫目的地に早く行きたい。仮眠をとるため少しの時間も惜しい。
≫急ブレーキは荷崩れの恐れや、それにより横転や追突の危険性がある。
等のことが考えられます。
しかし、荷崩れ等の危険性があるのであれば車間距離を広くとって視野を確保し
急ブレーキを掛けない運転に心掛けていれば防げることですが、現実は事業用貨物自動車の事故類型別事故件数の構成率(平成27年)でわかりますように、追突が52.9%(8,541件)となっており、視野確保や追突しないための車間距離を確保しているとは言いがたい現状にあります。
【指導用ツール】
原点回帰講習用「反応時間測定&停止距離計算」ツールは、「車は急に止まらない」ことを意識してもらうための指導・教養ツールです。
特徴として、反応時間測定と停止距離計算が一画面で測定と計算ができます。(30.4公開)
社員への指導は、下記のデータや動画を参考に考える運転を指導してください。
▼黄色信号に対する考え方
(アンケート結果)
2015/3/1(日)19:00 マイナビ学生の窓口より
渡る手前で信号が黄色に......。そのとき踏むのは?
ブレーキ 257人(60.9%)
アクセル 165人(39.1%)
60%の人がブレーキ派・・・ 車間距離が狭い。止まらず通過するだろうと安易な思い込みを持つと追突事故を起こす要因になります。
▼ 参考動画 (信号無視を考える)
下記の動画は、支援チームが採取したドライブレコーダ映像を基に作成したものです。
内容は、
【故意の信号無視】 【一点集中による信号無視】 【勘違い・思い込みによる信号無視】
【黄色信号の判断誤りによる信号無視】 の動画と【黄色信号の判断誤りによる信号無視】をしないための運転行動を掲載しております。
ので指導の参考動画としてお使いください。
信号交差点を通過する基本は、
運転する人の無意識のブレーキ と 無意識のアクセル では、おのずと結果も変わります。
意識することが、行動 から 考動(安全運転) へ のポイントだということを指導してください。
追突防止実技指導については、
㉑-2 ヒヤリハット分析から見た指導方法2( 「前車の急制動・停車」(貨物車の追突防止実技指導))をご覧ください。