ヒヤリハット分析から見た指導方法6

 

 

信号交差点に対する指導方法

 

その2 ( 右 折 )


 

 信号交差点を右折する際、右折用の矢印信号や時差信号があれば比較的楽に右折できるのですが、それ以外の場面で対向直進車が「途切れた。」「譲ってくれた。」場合、また、矢印が出ても対向直進車の信号無視などがあります。

 ドライバーは右折に際して適切な状況判断や右折先の歩行者や自転車の動静にも注意し行動しなくてならない難しさがあります。

 この難しさは信号交差点での事故のうち右折事故が一番多いことからもわかります。

 このページでは、右折事故データとヒヤリハット分析データを基に、 

右図のように

≫対向直進車への考え方 Ⓐ このページ

≫右直事故とサンキュウ事故 Ⓑ このページ

≫右折先横断中の自転車・歩行者 

  Ⓒは、6-2-2で解説

の走行順で指導方法検討してみます。 


▼交通事故データから見る右折事故

 

 まず信号交差点での右折事故の状況を見てみましょう。

 右折事故に関しては、下記のイタルダ・インフォメーションNO95に四輪車の右折事故の分析を参考にしてヒヤリハット分析と比較してみましょう。

イタルダ・インフォメーションNO95

「信号交差点における右折事故」

の中に注意すべき参考データと解説がありますので紹介します。

◆信号交差点における右折事故の特徴

≫信号交差点では右折事故が多い。

信号交差点事故の第1当四輪車行動類型別事故件数を見てみますと、右折時の事故が38,294件で全体の39%を占め最も高い発生率となっています。


特徴として 

≫1当、2当双方の車が「青信号」で交差点に進入し事故を起こしている。

≫事故の主要因は、1当右折四輪車の「安全不確認」である。

≫対向車に気を取られて、右折先の自転車、歩行者を見落し易い。

≫夜間は、同方向から進行する自転車や歩行者を見落し易い。

となっています。

■四輪車側の道路幅員で対相手比率が変わる

 

大規模交差点

 車道幅員が13m以 上(4車線以上相当)

中規模交差点

 車道 幅員が5.5m以上13m未満(2車線程度)

◆小規模 交差点

 車道幅員が5.5m未満(2車線未満)

 

■特徴

幅員の小さい道路から交差点に進入する場合は、対自転車、対歩行者事故の割合が高くなる。

~対向直進の四輪車や二輪車の交通量が少くその結果右折先の自転車や歩行者との事故の方が相対的に起き易い。

幅員の大きい道路から交差点に進入する場合は、対四輪車事故の割合が高い。

~対向車線の交通量が増加し、平均的な走行速度も高いため対向車の発見や右折可否の判断が難しくなり、その結果事故が増えると考えらる。

 


■幅員の大きい道路から進入する際は同方向からの自転車、歩行者を見落し易い

 幅員が大きくなるほど「同方向」の割合が高くなり、対向車線の状況の把握が難しくなり、その結果、運転者の注意がより前方の対向車線に向けられ、右折先の「同方向」からの自転車や歩行者への注意が疎かになるためと考えられます。

 

■夜間は同方向からの自転車、歩行者を見落し易い

 昼間の進行方向は自転車、歩行者ともに「対向」「同方向」が約50%ずつであるのに対して、夜間では「同方向」の割合が増える。

 夜間、周辺が暗くなると四輪車の前照灯が届きにくいこともあり「同方向」の自転車や歩行者を運転者が認識し難くなるためと考えられます。

▼信号交差点右折時のヒヤリハット状況

 

 信号交差点右折時のヒヤリハット状況はどのようになっているのでしょうか。ヒヤリハットデータのうち信号交差点の右折は21件あります。

 このデータと前記右折事故分析と併せて考えてみると右折時の指導点が見えてきます。

 

■ヒヤリハット原因

○確認不足 33%

○前車急減速・停車19%

○信号無視 19%

の3形態で71%を占めています。 

 


■信号交差点右折時、ヒヤリハット分析の特徴的内容

 ▼追従右折時(二台目~)、前車急減速・停車による追突の恐れのヒヤリハット

  上記【交通事故データから見る右折事故】には出てこなかった追突が19%となっています。

  この内容は、前車に続いて右折する場合先行右折車が「対向直進車の速度や距離等の判断誤り」や「対向直進車の信号無視」等があれば急停止することを考えれば予測できます。そのことは下の「右折時、前車の急停止等によるヒヤリハット内容」を見ていただければ分ると思います。

 

 追従右折時「後続車のためにも早く曲がる。」「もう信号が変わるので対向車は来ないから続いて行ける。」等の思い込みや自己判断で右折しようとすると前車の急減速に対応できなく追突してしまいます。

 右折時は思い込みをせず、気持ちを落ち着け、安全を確認してから発進する心のゆとりと、前車に続く場合はワンクッションおいて発進し車間距離を取ることが必要です。

 

▼You Tube

 【右折時、前車に追突事故動画】


相手 右折時、前車の急停止等によるヒヤリハット内容 改善すべき事項
自動車  出勤途中の交差点で片側三車線の道路で右折車線を走行中、前方の車両がその前の車に追突、その後方にいたのが自分の運転する車両であったのでハットした。  記載なし
 信号待ちをしている時右折の矢印信号が点灯したので加速して右折しようとしたら、信号の変わりが早く、前車が急停車したので追突しそうになった。 周囲の状況にも気を配り、信号だけに気を取られることなく、ゆとりある運転を心掛ける。

 右折時、前車が青の矢印信号で急に止まってしまい、衝突しそうになった。

前車との車間距離は十分にとる。
 右折待ちをしている時右折専用の矢印信号が点灯したので発進したが、自車の前の車で信号が黄色に変わってしまい、急いで渡ろうと考えていたのに前車が停止した為、追突しそうになった。 今回に限らず、いくら急いでいたとしても、ゆとりを持った運転をするように心掛ける。

▼指導方法等については、【ヒヤリハット分析から見た指導方法】の

㉑-2 ヒヤリハット分析から見た指導方法2( 「前車の急制動・停車」(貨物車の追突防止実技指導))

㉑-6-1 ヒヤリハット分析から見た指導方法6(信号交差点に対する指導方法 その1(総論、信号発進、直進))

をご覧ください。また、当支援チームが実施している原点回帰講習の発進時の急制動体験を実施するれば【車は急に止まらない!】ことの理解と停車時の前車との車間距離の必要性が理解できます。

★原点回帰講習(車は急に止まらない!)

▼ 発進時の急制動体験・・・大型車

30歳代 反応時間(指操作) 0.48秒 

≫ 時速5km/h  計算上の停止距離 0.79m

  (空走距離 0.67m + 制動距離 0.12m) 

◆ 体験講習 時速4km/h での停止距離は、

 ≫踏み替え時➡  1.33m  ≫構え時➡  0.87m



■対向直進車に対する考え方 Ⓐ

 

 交差点で、相手車がまだ遠くにいるから大丈夫と思って右折を始めたら、「対向車がすぐそこまで近づいてきていた」という経験は誰でも持っていると思います。 ドライバーの視覚認識に錯覚や判断ミスはつきものです。

「まだいける」「もう遅い」という考え方に変えることと、信号無視車両あるかもという予測運転が必要です。

下記のヒヤリハット内容を参考にして無理な右折はやめましょう。

 

◆対向直進自動車に対するヒヤリハット



相手 ヒヤリハット内容 改善すべき事項
自動車  大通りの右折車線で信号待ちをしている時前車が右折し始めたので、右折の矢印信号が点灯したのかと思い交差点へ進入しようとしたら、対向車線から直進車が向かってきて、慌ててブレーキを踏んだ。すぐに信号を確認したら、直進優先の青信号だった。

 前車の動きに惑わされ周囲の確認を怠り、思い込みの運転をしてしまった。周囲の状況は常に確認をとり、思い込み運転をしない。

思い込みをしない。周囲の安全確認

右折しようとしている車両の一台後ろで、対向車の直進を待っていた時、信号が黄色に変わり、前の車両が交差点へ進入し始めたので、自車も速やかに右折しようとしたら、既に信号が赤に変わっており左から直進車が突っ込んできて、接触しそうになった。

矢印信号のない交差点では、無理に交差点へ入っての右折待ちは非常に危険である。安全に右折をするには、次の青信号を待つようにする。

➡他車に合わせず目視による信号確認

右折をしようと信号待ちしている時右折の矢印信号が点いたので発進しようとしたら、対向車が赤信号にも関わらず自車の前を通過した。

信号が変わったからといって直ぐに行こうとせず、周囲の状況をよく確認してから発進する。

信号無視車両があるかも?予測運転

信号機のある丁字路を右折しようとしていた時信号が青になり、交差点に入ろうと徐行していたところ、左直進車が脇見運転をしながら直進して行ったのでヒヤッとした。

信号機が青だからと当てにして、別の方向から車は来ないだろうと思い込まず、安全運転を心掛けたい。

➡信号無視車両があるかも?予測運転

 

青信号を確認して右折しようとした時、信号無視の直進車に衝突しそうになった。

青信号に変わっても、左右を再度確認して、発進するよう注意する。常に防衛運転をするように心がける。

➡信号無視車両があるかも?予測運転

右折しようとしている時直進車が途切れず、なかなか右折できなかったので、赤信号に変わったところで発進しようとしたら、直進車が信号を無視し目の前を勢いよく通過した。

信号が変わっても、すぐに発進せず周囲の確認を怠らない。

信号無視車両があるかも?予測運転

◆右折時間はどれだけかかるか?



Q 図の大規模交差点(道路幅員15m)で乗用車が右折待ちⒶからⒷまでのどれだけの時間がかかるのでしょうか?

a 右折時間は感じる以上にかかっている。

  二車線を横切るのに平均 6.1秒

 遅い人で7.5秒 早い人で4.9秒

自動車安全運転センター「平成7年度調査研究報告書」内 P28 右折所要時間の測定 被検者27人の平均

◆対向直進車の位置・速度等の判断誤り

➡ドライバーは右折する時間を実際よりも短く感じている。

➡対向車の位置やスピードを甘く見積もる。

傾向があります。

 とくに、運転者が先急ぎの心理に陥って、焦って右折しようとしてるときには、この傾向が強くなります。

★右図のトラックやバスであればラインを超えて右折するには更に長く時間がかかることを忘れてはいけません。(原点回帰講習で、自車の車長等を質問するのはそのためです。・・・自車のイメージのない運転は事故を誘発します。)

上記、調査研究のデータ(右折にかかる時間)を基に対向直進車の進む距離を試算しますと、

対向直進車が

●時速50Kmの場合、

≫5秒➡70m  ≫6秒➡  83m ≫7秒➡  97m

●時速60Kmの場合

≫5秒➡83m  ≫6秒➡100m ≫7秒➡117m

も進むことを頭に入れておく必要があります。

▼参考動画

 下のボタンをクリックして動画を参考にしてください。


■右直事故とサンキュウ事故に対する考え方 Ⓑ

 

 右折する場合、対向車に気を取られて、後続の軽自動車や二輪車などが走って来ていても、先頭車の影に入っているため存在を認識できない。また後続車がないように見えて右折したら突然視界に入り込んできたということも少なくありません。特に二輪車は四輪車の隙間を走行することができるので、車と車の間から突然駆け抜けてくることも多々あります。

 下記ヒヤリハット内容や参考動画を参考にして指導してください。

 

相手 対向直進車を認識していないヒヤリハット内容 改善すべき事項
二輪車  右折車線で信号待ちをしている時右折の矢印信号が点灯したので発進しようとしたら、バイクが突然目の前に現れ、ヒヤリとした。  信号が青に変わっても、周囲の安全確認はしっかり行い、直ぐに発進せずゆとりを持った運転を心掛ける。
 右折待ちをしているとき対向車が停止して道をゆずってくれ、右折しようとしたら対向車の脇から原付が飛び出してきて接触しそうになった。 道を譲ってくれたからと言って慌てて右折するのではなく、一呼吸おいて安全を確認してから行動する。

▼右折時まさかの直進車(KYT動画)

 

動画は、斜めに道路を横切りますが、形態は右折と同じです。

片側一車線の信号交差点 国道ですので通行量は多いのですが、対向車が右折停止すれば、車線はふさがりますので斜め横断することは可能です。ここに盲点がありました。

 


盲点その①

いつも通行していて車両通行可能な空き地があるのは知っていたのですが、今まで対向車が路外通行して直進する場面に出くわしていませんので来ないものと過信していました。

盲点その②

右折時、対向右折車と、赤色の後続車だけしか認識していません。

ただ、対向右折車と赤い車の車間距離は「広いなぁ」と感じていたのです。・・・現実は対向右折車と赤色車両の間に軽四輪が走行していたのです。・・・右折車の影になって軽四輪が見えなかった。

このように過去の経験による過信と疑問に対する予測行動が伴わないと動画のヒヤリハットや右直事故になってしまいます。

 

▼追従直進車側から見ると

直進車-右折車の側方通過❶

対向右折車の運転席側が見えていない。

 

直進車-右折車の側方通過❷

対向右折車の二台目は見えているが一台目が見えていない。

直進車-右折車の側方通過❸

右折車の側方位置で対向右折車の一台目が見える。



≫直進時、対向右折車の運転席が見えないということは、対向右折車のドライバーには後続直進している当車を認識していないことになります。

▼指導方法



 右折事故を回避する為には、 

直進車優先の原則を守る。」ことと矢印信号や時差信号の表示に従うのが一番です。

 先に説明しました右折するさい「まだいける」は「もう遅い」という考え方と、信号無視車両あるかもという予測運転が必要ですが、「直進車優先」を基本に、矢印信号や時差信号灯火を優先する意識を持てばイレギュラーも少なくなります。


❷ 絶対に車が来ないことを目視での確認が必要 

 「後続車のためにも早く曲がる。」「もう信号が変わるので対向車は来ない。」などと焦らず。気持ちを落ち着け、安全を確認してから発進する心のゆとりを持つことが必要です。

 ➤「自分の目で相手車が見えない。& 相手も自車が見えていない。」ことを意識してください。

❸ 右折時は、信号のない交差点の「二段階停止」を意識する。

  特に、二車線跨ぎ時(大規模交差点)やサンキュウ事故にならないためにも、急速な通行を避け、対向直進車の後続車死角で見えなかった車両見せるための徐行や減速をする必要があります。

 この内容を想像また下の参考動画を見て考えてみてください。 

▼同種参考動画

 動画や右図のように、右折車両の対向直進車の後続車は先行車や右折車の影で見えないことを意識する必要があります

 このことは、「㉑-3 ヒヤリハット分析から見た指導方法3(施設から出時の安全確認の実技指導方法)」や「信号のない交差点の通行方法等」で説明しました「見せる停止」を意識して発進時から加速発進せず、見せる徐行が必要ではないでしょうか?

※自分の目で見る意識が先行すると、1~2m前後道路に出てしまいます。乗用車の場合、2m前後トラック等キャブオバー車の場合、1m前後道路に出ることを意識してください。

 そんなことまでしてと考えるのであれば、

❶ 「直進車優先の原則を守る。」ことと矢印信号や時差信号の表示に従うのが一番でイレギュラーも少なくなります。


 サンキュウ事故を起こさないためには、対向車が道を譲ってくれて停止してくれていますので、慌てず見せる停止をしてから進行してください。


■ 右折先横断中の自転車・歩行者 Ⓒ

 

右折先横断中の自転車・歩行者については、 容量が大きくなりこのページで作成できませんので、次のページで説明します。