前車 急減速・停車
に対する指導方法
( 貨物車の追突防止指導 )
ヒヤリハット分析からみた指導方法について今回は、「前車急減速・停車」の指導方法を説明します。
貨物車の交通事故形態で一番多いのが「追突事故」ですので、「前車急減速・停車」のヒヤリハット内容を分析しその指導方法を考えてみたいと思います。
割込み・車線変更を除く「前車の急減速・停車」によるヒヤリハットは51件、全体の10%の発生です。
主原因から見ると、ヒヤリハット記載したドライバー(以下「当方」)によるものが80%となっています。では、どのような場所で相手方の行動でヒヤリハットになっているか検討し、その指導方法を説明します。
▋参考 「衝突被害軽減ブレーキ(AEB装置)の対四輪車追突事故率 |
▼衝突被害軽減ブレーキ搭載車は、未搭載車より追突事故率が約53%発生率が低い。
衝突被害軽減ブレーキは、搭載されるセンサーにより作動条件(速度や相対速度、対象物、昼夜など)は異なるものの、ドライバーの注意散漫の状態や、脇見運転などの万一の際に、緊急的にブレーキを作動させてドライバーをサポートする機能ですが、AEB装置が正常に作動していても、
「走行速度や走行時の周囲の環境、路面の状況などによっては、 障害物を正しく認識できず、衝突を回避できない場合があり、完全に事故を防ぐことはできない。」
と交通事故総合分析センターは分析しています。
管理者は、「衝突被害軽減ブレーキ搭載車」であっても過信・漫然運転しないことを指導しておく必要があります。
2018年9月3日
交通事故総合分析センター
「衝突被害軽減ブレーキ(AEB装置)の対四輪車追突事故低減効果の分析結果」
項目 ①信号待ち等停車時の前車との車間距離体験指導 ②車は急に止まらない体験指導 |
下記の詳細の表を大きく分類したものが下の表です。
更に、交差点・単路等に分類すると
となり、
①交差点・同付近41% ②単路+不明=43%
で全体の84%を占めています。
この二点について原因等を考えてみましょう。
交差点・同付近での「前車の急減速・停止」でのヒヤリハットは21件で、
○信号が赤・黄・青色時 5件(24%)
○前車の右左折行為による減速・停止 16件(76%)
≫ 右折➡ 69% 左折➡ 31%
となっています。
交差点で前車の予期せぬ行動は、
▼信号が赤・黄及び青色時のヒヤリハット内容
赤色 ≫走行中信号が赤に変わり、ゆっくりと停車しようとしたら、前車に急ブレーキを掛けられ追突しそうになった。 ≫運搬中運転中、脇見をしていて、前方信号が赤になり、急停車したが、前車に追突しそうになった。 黄色 ≫交差点の5m手前を走行中信号が黄色に変わったら、前車が急ブレーキを掛け停車した。急停止するとは予想もせず、自分も慌ててブレーキを踏んで回避できたが、もう少しで衝突するところだった。 ≫自動車で交差点を通過中前方の車が黄色信号に変わった時に、急に停止したので追突しそうになった。 青色 ≫左側が左折ライン、中央・右側が直進ラインの3車線道路で、中央を走行中左折ラインが渋滞しており、自車の前を走行していた車が左折したかったのか、青信号にも関わらず信号機の下で急ブレーキをかけ停車した。車間距離をとっていたので問題なく停車できたが、追突されないかとヒヤヒヤした。 |
前車の右左折時の急減速・停車16件中
合図なしが6件(38%)となっています。
▼前車が右左折のため急減速・停止
右折 ≫信号待ちをしている時右折の矢印信号が点灯したので加速して右折しようとしたら、信号の変わりが早く、前車が急停車したので追突しそうになった。 ≫右折時、前車が青の矢印信号で急に止まってしまい、衝突しそうになった。 ≫トラックを運転中、前を走行中の乗用車がウインカーも出さずに右折しようとブレーキを掛けた為、自車も急ブレーキを掛け停止した。 左折 ≫走行中煙草に火を点けるため、下を向いてライターを取り顔を上げると前の乗用車が急に左折し、追突しそうになった。 ≫運転中前車がいきなりブレーキをかけ左へ曲がった。 ≫運転中前を走っていた軽自動車がいきなりブレーキかけ、畑道に曲がったので、急ブレーキをかけた。高齢者の運転する車だったので、車間距離はとっていたが、指示灯をつけずにいきなりブレーキだったので、ヒヤリとした。 |
前記以外の前車の急減速・停車が30件のうち
≫タクシー等の停車のための急減速 6件(20%)
≫事故・故障のため停車 4件(13%)
≫不明の急ブレーキ 8件(27%)
と60%を占めています。
▼直進走行時、前車が急減速・停止
≫車を50km位で走行中、前を走行中のタクシーが横断歩道の手前で客を乗せる為に急停車した。自車も慌てて急ブレーキを掛け衝突を避けたが、ヒヤリとした。 ≫運転中、前のトラックがひっくり返って追突しそうになった。 ≫トラックを運転中、前のタクシーがいきなり止まり、急ブレーキをかけた。 ≫左折車線で信号待ちをしている時信号が青に変わったので、前方車両に続いて発進したが、自転車が歩道を横断した為、前車が急停止し接触しそうになった。 ≫走行中前方を走行中の大型ダンプカーが、突然急ブレーキを掛けた。脇見運転をしていたのかは不明だが、車間距離をあけていなければ、衝突するところだった。 ≫走行中前車が、ウインカーも点けづに急にUターンしようとした。 ≫荷受けに向かう途中交差点の信号が青にも拘らず、3~4km手前から自車の前を走行していた(無灯火・蛇行運転)車両が急停車した。不審に思い、車間距離を十分にとっていたので何事もなく対応できたが、一歩間違えば事故になっていたかもしれない。 |
前車の急減速・停止51件中、広めの車間距離や動静注視をしていたのは16件(31%)となっています。
ということは約70%の人は「偶然・たまたま事故に至らななかった」のです。
この70%の人は、その時「たまたま車間距離が広かった。」「速度が控えめだった。」「早く気がついた。」等だと考えられます。
ヒヤリハット内容を読んでお分かりと思いますが、「思い込み」「・・・だろう運転」「脇見」等がヒヤリハットの原因となっていますが、日頃から広めの車間距離をとっていれば前車の急減速・停車に対するヒヤリハットも半減するのではないでしょうか?
このヒヤリハット内容を図式したものが下の図です。
これは、イタルダ・インフォメーションNo.43「追突事故はどうして起きるのか~その時の運転者のエラーは~」内の図で、
■貨物自動車は追突事故が多い
右のグラフは、全日本トラック協会が平成27 年8 月に公表した「事業用貨物自動車の交通事故の傾向と事故事例」から抜粋したものですが、追突事故は全体の52%を占めています。
「前車の急減速・停車」によるヒヤリハットで起こりうる事故形態は「追突事故」です。
同51例のヒヤリハットの「改善すべき事項」では、67%の人が「車間距離を十分にとる。」と記載しています。(下記に記載内容を掲載)
改善すべき事項(抜粋)
≫もう少しスピードを落とし、車間距離をあける。 ≫車間距離を十分にとり、余裕をもった運転を心掛ける。 ≫車間距離を十分にとり、周囲の状況をよく見る。 ≫思い込み運転をせず、周囲の状況は常に把握し、車間距離を十分にとって走行する。 ≫大型車両の後を走行するのは、前方の状況確認がしにくく、車間距離の重大さを感じた。割込まれても腹を立てない精神で車間距離を保ちたい。 |
このことから車間距離を意識させる指導が必要になります。
前車の急減速・急ブレーキに対応するためには、前車との車間距離が重要なポイントです。
管理者の方は「広めの車間距離をとるように!」と指導されていると思いますが、言葉ではなかなかドライバーに伝わりません。
追突事故を起こした人、ヒヤリハットを体験した人等は当分の間広めの車間距離を意識して運転しますが、長年の習慣から月日の経過とともに車間距離が狭くなっていきます。
広めの車間距離を意識して運転することが重要
①信号待ち等停車時の前車との車間距離体験指導
走行時の車間距離が短い人は、停車時の車間距離も短いのです。これは私どもが事故惹起者の同乗指導等をして感じていることです。
下の写真のような状況は良く見かける場面で、ドライバーは狭いとは感じていません。
・前が良く見えているから。 ・車線変更できるだけの距離をとっている。等の理由と「スピードを出してるわけではないのでスグ止まれる。」という意識が働いています。
この考え方が間違っていると気づかせるには、
≫他車の立場に立って自車を見る。 ≫人には反応時間があるので車はスグに止まらない。
ことを体験させることが必要です。
そのひとつ「他車の立場に立って自車を見る。」方法が信号待ち等停車時の車間距離体験指導です。
▼同実技体験で前車との車間距離が普段より約2m長くなる。
この体験は、「原点回帰講習」に取り入れて実施しており、今まで実施した貨物車の
≫日頃の平均車間距離 2.7m ≫前車から見た平均車間距離 4.6m
で、約2m長くなります。
方法は簡単で、下記写真のように
①普通車の後ろに自分が毎日運転する貨物車を信号待ち等での車間距離とらせて停車したのち測定
②普通車に移動して、運転席からバックミラーとドアミラーを見て威圧に感じない距離まで移動し測定
をします。
~ 自身の車間距離を第三者の立場から見ることで車間距離を意識させる。 ~
◆あらためて体験することで考え方も変わります。
◆割り込まれるとの意見もありますが、この状態では一台しか入れません。車線変更車両を入れてあげる余裕も必要です。
~ ある受講者の話~
≫ 無理な割込みや車線変更された場合は「無かったことにする。」
≫ ずっとその車を見続けたら腹が立つので「速度を落とし、車間距離を空けてもう一台を入れる。」
意識
すれば
≫≫≫
メガネカメラで撮影
②車は急に止まらない体験指導
「①信号待ち等停車時の前車との車間距離体験指導」を行う時は必ず 下の「反応時間測定&停止距離計算」ツールを使って事前に意識付けを行ってください。 実技講習が生きてきます。
【指導用ツール】
原点回帰講習用「反応時間測定&停止距離計算」ツールは、「車は急に止まらない」ことを意識してもらうための指導・教養ツールです。
特徴として、反応時間測定と停止距離計算が一画面で測定と計算ができます。(30.4公開)
▼反応時間測定と停止距離計算
▼スマホ操作時の反応時間測定と停止距離計算
▼ドライバーの反応時間と計算上の停止距離測定
▼発進時の急制動による停止距離測定
を行ってください。
実施方法は、支援ページ内
追突しないための体験型指導方法①
追突しないための体験型指導方法②
に掲載しております。右のボタンをクリックして内容を確認してください。
参考動画と検証
停止距離体験(車は急に止まらない。)
≫前後及び構えと踏み替え時検証
右の動画は、年齢20代 指操作での平均反応時間0.48秒
▼大型車 時速4km/h
≫計算上の停止距離
62cm(空走距離 53cm + 制動距離 9cm)
≫体験- 踏み替え 133cm
≫ 構え 87cm
企業の駐車場で実施可能な体験講習です。
車は急に止まらないことを理解してもらいます。
4~5Km/hであっても停止距離は1m前後の距離が発生します。
先に説明しました「信号待ち等前車との車間距離検証」は、発進追突防止につながります。
また、低速時の停止距離がわかれば計算上の停止距離測定で、20、30、40Km/hを計算してみてください。車間距離の必要性の意味が理解できると思います。