追突しないための体験型指導方法
②(実技編 停止距離体験等)
追突しないための体験型指導方法②(実技編 停止距離体験等)
~ 車を使用した追突防止体験講習方法
■車は急に止まらない。
「追突しないための体験型指導方法①」項で、空走距離、制動距離および停止距離について理解していただけたと思いますので、実際に車を使って「車は急に止まらない。」体験講習の方法について説明をします。
中速以上の体験講習は、自動車安全運転センターの「中央研修所」やホンダが運営している「交通教育センターレインボー」等で受けるしかありませんが、5km/h以下の速度での停止距離体験講習は自社内で実施することは可能で、当安全運転管理支援チームでの企業講習にも取り入れておりますので参考にしてください。
ドライバーが「追突事故」を考えた場合、早い速度の40Km/h以上をイメージし、5m/h以下の速度では「スグ停まる。」というイメージを持っています。
しかし、先の「追突しないための体験型指導方法①」で説明しましたように5Km/h以下の低速でも停止距離は発生し、そのほとんどが空走距離が占めています。
この人が歩く速度である低速時、特に発進時の体験講習をさせることで、車間距離の必要性を理解させることができ、バック時の速度や二段階停止の必要性と連動して指導することもできます。
また、私どもが行っております企業講習の受講者を見ていますと、
ポイント ≫ 停車時の車間距離の短い人 = 走行時の車間距離も短い
のです。▶「原点回帰講習」指導者用ノート 【実技解説】動画④【前車との車間距離体験】
このポイントをふまえて信号待ちや渋滞時を想定した体験指導
1“ 発進後の急制動体験 ”
2“ 日頃の車間距離測定 ”
を通じて車間距離の必要性を理解させようとしたものが下記2つの車を使った講習方法です。
関連項目
≫ 交通事故対策に悩んだら「原点回帰」の体験型講習を!(交通事故形態に対応する事故原因と指導の考え方) ≫追突しないための体験型指導方法①(基礎編 ツール・アプリを使った空走時間体験等) ≫ 運転中の「ながらスマホ」に対する指導方法~ スマホ運転の危険性を認識させる指導方法 ~ new ≫ 交通事故発生報告書の記載例(安全運転指導の一つとして記載させましょう。) |
■1 発進追突を防止を兼ねた体験講習(発進後の急制動体験)
▼サンプル動画
20歳代 反応時間(指操作) 0.61秒
≫ 時速6km/h 計算上の停止距離 1.22m
(空走距離 1.02m + 制動距離 0.2m)
◆ 体験講習 時速6km/h での停止距離は、
≫ 踏み替え時➡ 1.10m
≫ 構え 時➡ 0.85m
◆ この機会にバックでの急制動体験も実施してください。
【指導用ツール】
原点回帰講習用「反応時間測定&停止距離計算」ツールは、「車は急に止まらない」ことを意識してもらうための指導・教養ツールです。
実技実施する前に検証すると効果的です。
特徴として、反応時間測定と停止距離計算が一画面で測定と計算ができます。(30.4公開)
▼必要な人員、機材等
① デジタル表示の速度計がある車両
② 最低3人~ 乗員は2名(運転者、助手(速度の確認))
停止合図を出す者
③ 懐中電灯(無ければ合図者が手を挙げる)
④ 厳密に実施するなら防犯ブザーを使用する。
③ の例 懐中電灯・手を挙げての停止合図
④の例 防犯ブザーを使用しての停止合図
▼ 実施方法
① デジタルの速度計がある車両を使用してください。
同乗者が発進後の最大速度を見るためです。
② 停止合図者は、停車している場所から5~7m先の停止合図を出す目標場所(路面のひび割ヶ所等)決めておいてください。(事前に練習しておくとよいでしょう。)
③ 測定は、タイヤの接地面を基準にします。
注: 停止合図者は、自身の停止合図動作時の反応時間を考慮して合図を出してください。
~ 目標ヶ所にタイヤの接地面がかかる少し前に合図を出すようにしてください。
≫ 測定精度を高めるには防犯ブザーを使用してください。
■防犯ブザーを利用した実施方法と検証結果
防犯ブザーは、ピンを抜くと高音のブザーが鳴ります。この機能を利用した実施方法について説明します。
▼同乗者は、
≫「ブザーが鳴ったら急ブレーキを踏む。」よう運転者に伝えてください。
≫ピンが抜けやすい状態にし下記の写真のようにドアの測定ヶ所に固定する。
※速度メータを確認すること忘れないようにしてください。
≫合図者は、前進後5m~7mの範囲内で音が鳴るよう紐を弛ませておく。
開始時 停止合図者は紐をたるませておく。
ピンの抜けた位置の特定
防犯ブザー固定位置とピンの抜けた位置の距離を計測
■防犯ブザーにメジャーを使用すれば補助者1名を減らせて測定も簡単になります。
■検証結果(防犯ブザー使用しての停止距離検証)
≫被験者~ 年齢20代 男性
≫反応時間~ 0.59秒
(スマホアプリで、画面から10cm離して測定)
≫発進時最大速度~ 時速4Km/h
≫ブレーキ操作~ 踏み替えと構えの2回
▼ 結果に対しての指導方法(下記表参照)
① 「車の停止距離計算」ソフトを使って計算上の停止距離等を確認
反応時間0.59秒・時速4Km を入力して結果を表示
被験者の
≫計算上の 停止距離 73cm = 空走距離 65cm + 制動距離 8cm
検証時の停止距離
≫構え時の 停止距離 70cm
≫踏み替え時の停止距離 94cm
◆構え時の停止距離は、計算上の停止距離とほぼ同じ。
◆踏み替え時の停止距離は、構え時より20cm以上長くなる。
◆停止距離の90%は、空走距離(65cm)が占めている。
ことを説明し「車は急に止まらない。」ことを強調してください。
◆追加として被験者の反応時間での40Km/h(下記表)の計算上の停止距離
40Km/h時 反応時間0.59秒 での停止距離14.2m=空走距離(6.5m)+制動距離(7.9m)
を説明し、走行時での車間距離の必要性を説明してください。
◆説明例(下記表参照)
▼速度が4km/hから10倍の40km/hに上がると、
≫空走距離は10倍( 0.65m → 6.54m )
≫停止距離は20倍( 0.73m → 14.42m)
等、被験者の反応時間(空走距離)を使って指導してください。
▋参考 「衝突被害軽減ブレーキ(AEB装置)の対四輪車追突事故率 |
▼衝突被害軽減ブレーキ搭載車は、未搭載車より追突事故率が約53%発生率が低い。
衝突被害軽減ブレーキは、搭載されるセンサーにより作動条件(速度や相対速度、対象物、昼夜など)は異なるものの、ドライバーの注意散漫の状態や、脇見運転などの万一の際に、緊急的にブレーキを作動させてドライバーをサポートする機能ですが、AEB装置が正常に作動していても、
「走行速度や走行時の周囲の環境、路面の状況などによっては、 障害物を正しく認識できず、衝突を回避できない場合があり、完全に事故を防ぐことはできない。」
と交通事故総合分析センターは分析しています。
管理者は「衝突被害軽減ブレーキ搭載車」であっても過信・漫然運転しないことを指導しておく必要があります。
2018年9月3日
交通事故総合分析センター
「衝突被害軽減ブレーキ(AEB装置)の対四輪車追突事故低減効果の分析結果」
■2 日頃の車間距離測定
先に説明しました「 停車時の車間距離の短い人 = 走行時の車間距離も短い 」ことを検証する講習方法です。
停車時の車間距離は、日ごろから身についたもので、場面が変わってもほとんどの場合その車間距離は変わりません。これはドライバー自身が適正な車間距離を保っていると思っているからです。
反面、信号待ち等で停車した際、バックミラーで見る後続車に「接近しすぎ。」「威圧」と感じることも多いのですが、自分が同じことをしていないか?とは考えません。
この講習を通じて
≫ 前車に不安感を与えない車間距離を意識させる。ことで車間距離考えさせる。
≫ 発進追突の危険性を軽減する。
ことを目的にした講習方法です。
▼必要な人員、機材等
① 業務使用車両2台
② 最低2人
■停車時の車間距離講習方法
注: 測定した結果は必ず記録しておいてください。
測定結果は、同種事故時の指導内容や教養材料に使用することができます。
① 日頃の車間距離測定
≫ 後方のⒶ車に乗車し、日頃の車間距離をとる。
≫ 降車して車間距離を測定
② 前車の運転者から見た場合を体感
測定が終わればⒷ車に乗車させ、運転席からバックミラー見て
※ 威圧に感じるか?
※ 接近しているように感じるか?
を聞いてください。
「威圧感」や「接近している」と感じるのであれば、Ⓑ車を威圧に感じない場所まで前進させてください。
③ 威圧に感じない車間距離測定
車間距離を計測し、日頃の車間距離の計測記録との違いを確認させてください。
■検証結果
≫被験者 上記「発進後の急制動被験者」20歳代 男性
◆日頃の停車時の車間距離
~前車のタイヤが見える状態で停車
➡車間距離 3.4m
◆前車乗車後のバックミラーを見て
~威圧感を感じない車間距離
➡車間距離 4.8m
≫被験者感想
➡後続車のライトが見えないと狭いと感じる。
≫被験者感想
➡ライトが見えると安心感がある。
参考
上記で、日頃の車間距離(前車のタイヤが見える)と、前車のバックミラーから見た「威圧に感じない車間距離」の検証をしましたが、更に接近した状態「前車のバンパーが見えない状態」での車間距離も検証しましたので参考にしてください。
≫ 前車が不安に感じない車間距離 4.8m
≫ タイヤが見える車間距離 3.4m
≫ 前車のバンパーが隠れる車間距離 1.2m
※この結果から見た停車時の前車との車間距離は、
5m前後の距離を空ける(前車のタイヤの接地面と路面が見える)
よう指導してください。
参考~ バンパー見えない車間距離(1.2m)
参考~ 前車のバックミラーから見た後続車
1と2の結果から見た指導
1 発進追突を防止を兼ねた体験講習について
「車は急に止まらない。」ことを体験で理解させて、通常走行時の適正車間距離について指導してください。
安全な車間距離(適正車間距離)は、停止距離を基準にしていますので、
▼おおむね速度計の読みの数字から15を引いた距離を目安に指導してください。
時速30km-15=15m 停止距離は、14m
時速40km-15=25m 停止距離は、22m
時速50km-15=35m 停止距離は、32m
時速60km-15=45m 停止距離は、44m
わかりにくければ、普通車1台5mと換算し、40Kmの場合であれば前車との間に、5台分=25mとの説明方法もあります。
▋スマホ利用者には、反射神経測定や反応時間測定アプリを使っての説明も有効です。
下のボタン【原点回帰講習用「反応時間測定&停止距離計算」ツール】や右のWebにある停止距離測定のツール等で説明し関心をもたせてください。
▋参考 実施結果
下の表は、受講者に【原点回帰講習用「反応時間測定&停止距離計算」ツール】を使用しての結果です。
▼ 予測停止距離と計算結果の停止距離を見比べてください。
特に、40Kmになると停止距離を理解していないことがよくわかると思います。
2 日頃の車間距離測定について
先の検証結果から見た場合、
◆「威圧に感じない車間距離」は、普段の車間距離よりも、1.4m長い。
◆1.4mを時速4kmで進む時間(秒)は、下記表のとおり1.2秒
◆1.2秒は、被験者の反応時間 0.59秒 の2倍の反射(空走)時間に相当します。
ことを説明し、効果とし
「前車に威圧感を与えない距離は、発進追突の予防になる。」ことを訴え、
「相手に威圧(狭い)に感じさせない車間距離をとろう。」をスローガンにするなどにして、全社的に取り組むことも重要です。
注: 上記2の内容は、被験者の反応時間や検証結果等によって変わります。
1(追突防止 基礎編)、2(追突防止 実技編)が終わりましたので、次に
3(追突防止 実践編)で、業務中の追突防止のための運転操作指導方法